海と島の歴史資料館は、広島県豊田郡大崎上島町に位置し、別称「大望月邸」としても知られる資料館です。この資料館は、かつて大崎上島で廻船業や造船業を営み、政治家としても名を馳せた望月家の邸宅を活用しており、島の歴史と文化を展示する貴重な施設です。
1875年(明治8年)に着工し、1881年(明治14年)に完成したこの建物は、望月家の宗家である「大望月」としての役割を果たしていました。望月家は江戸時代から明治にかけて廻船業や造船業で成功し、さらに大正・昭和時代には政治家一家としても知られていました。特に元内務大臣の望月圭介や、元広島県議会議員の望月俊吉、望月乙也の三兄弟がこの家の出身です。
望月家の邸宅は一時人手に渡りましたが、大崎上島町が買い取り、2002年に歴史資料館として再整備されました。現在は大崎上島町教育委員会によって管理され、島の歴史や文化に関する貴重な資料が展示されています。
資料館では、特に大崎上島の廻船業の歴史や、「島の宝100景」として選ばれている「櫂伝馬競漕」の資料が展示されています。また、島の北側が国の天然記念物に指定されている「スナメリ回遊海面」に関する資料や、当時の船乗りが見聞きした桜田門外の変に関する図や書状なども展示されています。これらの資料は、島の歴史や海運業の発展に重要な役割を果たした要素を物語っています。
この建物は、望月家の三兄弟の父であり、初代県議会議員でもあった望月東之助によって建てられました。施工は近隣の宮大工によるもので、具体的な名前は明らかになっていません。再整備時の設計は「あい設計」、施工は「増岡組」によって行われました。
建築面積は726m²、延床面積は712m²で、母屋、長屋門、展示棟(旧蔵)から構成されています。特に、釘を使わずに木材を組み合わせる「地獄造り」という建築様式が採用されており、木組みの技術が光る建物です。主部材にはツガ、ヒノキ、ケヤキが使用され、土間にはクリが用いられています。これらの材木は当時の望月家の富と影響力を象徴するものです。
母屋の建坪は176坪で、木造瓦葺の2階建て、入母屋造りです。特徴的な「むくり屋根」には中央に煙抜きが設けられており、その屋根を支える部分には和船造りの技術「船枻造り(せがいつくり)」が使われています。これは望月家が廻船業で培った技術と知識を反映している部分です。
さらに、建物の中には一部隠し部屋(二重天井)が存在しています。望月東之助は全ての部屋に二重天井を設けようとしていましたが、彼の父である善三郎の助言により、一部屋のみにとどめられました。これにより、家全体がより安全で秘密性の高い構造になっています。
望月家は江戸時代から明治時代にかけて廻船業で大いに成功を収め、島内での影響力を強めました。当時、望月家は島の経済を支える存在であり、特に三菱高島炭鉱からの石炭運搬や造船業、さらには建築資材の運搬などで知られていました。このため、多くの人が出入りする望月家の邸宅は、その規模と豪華さが島内でも特筆される存在でした。
展示棟(旧蔵)の建坪は15坪で、現在は島の歴史文化に関する展示が行われています。また、長屋門は建坪29坪で、かつての生活や商業活動の様子を伝える貴重な建物です。
開館時間: 9:00 - 17:00
休日: 月曜日、月末、年末年始
入館料: 大人200円、小人100円
駐車場: 無料駐車場あり
島外からのアクセスはすべて船で行われます。白水港からは車で約5分、徒歩で約20分の距離です。大崎上島の自然と歴史に触れることができるこの資料館は、訪れる価値のある観光スポットです。