呉市海事歴史科学館は、広島県呉市にある科学館であり、愛称は「大和ミュージアム」として広く親しまれています。2024年度には改修工事が始まり、2025年2月中旬から2026年3月末まで休館となる予定です。ただし、2025年1月31日までは教育旅行の受付が行われており、リニューアルオープンは2026年4月を予定しています。
このミュージアムは、呉市海事歴史科学館条例に基づき設置され、条例の第1条には「呉の歴史や科学技術を紹介し、住民が歴史への理解を深めることを目的とする」と定められています。具体的には、明治以降の日本の近現代史における呉の役割や、呉の近代化に貢献した科学技術を紹介し、住民が平和の大切さを学ぶ機会を提供しています。
ミュージアムの特徴は、その名の通り旧日本海軍の戦艦「大和」に焦点を当てた展示内容で、多くの来館者に親しまれています。2005年4月23日に開館し、日露戦争・日本海海戦から100年目、太平洋戦争終戦から60年目にあたる年に歴史的な一歩を踏み出しました。
ミュージアムに入るとすぐに見えるのが、実物の10分の1サイズの戦艦大和の模型が展示されている「大和ひろば」です。この模型は、戦艦大和の海底調査や発見された資料に基づき、最新の情報を元に作られています。映画『男たちの大和/YAMATO』の撮影時にもCG合成用素材として使用されました。展示されている模型は、史実や資料に基づき、必要に応じて改修され続けています。
1階には、他にも戦艦陸奥の主砲身や重巡洋艦青葉の主砲、航空戦艦日向のマストに掲揚されていた軍艦旗、零式艦上戦闘機六二型、“人間魚雷”回天10型(試作型)など、多くの海軍兵器の実物が展示されています。また、潜水調査船「しんかい」の実物展示や、戦後の海事史に関する展示も充実しています。
2階は吹き抜けになっており、1/10スケールの戦艦大和を見下ろすことができるスペースです。ここからは、模型全体の壮大さを体感することができます。
3階には「大和シアター」があり、スクリーンと固定椅子を設けた映像展示が行われてきました。しかし、2025年度のリニューアルにより、シアターは座席数200席の多目的スペースに改修され、ミニ企画展や講演会、ユニークベニューなどのイベントに利用される予定です。
展示室では、元々「船をつくる技術展示室」として船舶技術を紹介していましたが、2025年度のリニューアル後には「呉のものづくり」をテーマとした新しい科学技術展示室がオープンします。この展示室では、造船技術のみならず、航空機開発や素材開発、加工技術なども紹介される予定です。
4階は書庫と資料室となっており、船舶艤装品や模型、図面、紙資料などが保管されています。専門的な資料が揃い、研究者や興味を持つ来館者にとって貴重な情報源となっています。
大和ミュージアムの開館の背景には、呉市が造船業の不況により経済停滞からの脱却を模索していたことがあります。1980年代初頭には広島県が県立博物館の建設を検討し、呉市も「海に関する県立博物館」の設置要望を出していました。1990年代に入り、戦艦大和を核とした博物館の構想が固まり、1997年には宝町地区に博物館の建設が正式に決定されました。
博物館建設において、戦艦大和という軍事色の強いテーマを持つ施設であるため、県立として開館することは難しいとされましたが、呉市が市主体で取り組むことを決めました。1999年に仮展示施設で行われた「戦艦大和展」では、3カ月で1万人を超える来館者を迎え、博物館建設の支持を集めました。
2005年に正式に開館した大和ミュージアムは、その後も多くの来館者に支持され続けており、2019年には来館者累計1,400万人を達成しました。また、呉市の観光資源としても重要な役割を果たし、地域経済や文化に貢献しています。開館当初から、戦争賛美ではなく、戦艦大和の建造や技術発展に焦点を当てることで、平和学習の場として機能しています。
現在は、指定管理者制度が導入され、学芸部門は引き続き呉市が担当していますが、ミュージアムの管理運営や広報活動は「大和ミュージアム運営グループ」が行っています。