八千代湖は、広島県北部に位置するダム湖で、桜の名所として広く知られています。特に春になると、湖畔に植えられた約6,000本のソメイヨシノが満開となり、圧巻の景観を楽しむことができます。湖畔の「のどごえ公園」を中心に、花見客が昼夜を問わず訪れ、賑わいを見せるのが特徴です。
ソメイヨシノは、比較的寿命が短いことが知られていますが、近年その幹の勢いが衰えを見せています。これを受け、ダムを管理する国土交通省中国地方整備局では「土師ダム水源地域ビジョン」を策定し、地元の安芸高田市と協力して桜の保守・管理活動に取り組んでいます。特に、桜守プロジェクトと呼ばれるボランティアによる桜の管理活動が行われており、地域の自然環境を守るための大切な取り組みとなっています。
八千代湖は、その広大で穏やかな湖面がカヌー競技に適していることから、多くのカヌー大会が開催されています。1993年にはアジアカヌー選手権大会が開催され、翌年の1994年アジア競技大会(広島大会)でもカヌー競技の会場となりました。その後も、1996年のひろしま国体でもカヌー競技が行われ、八千代湖はカヌー競技の重要な拠点として知られています。
毎年8月には、土師大橋の下に設けられたカヌーコースで八千代湖交流ボート大会が開催されます。また、カヌーの練習場としても利用されており、多くの競技者や観光客が訪れます。
11月には、毎年恒例の土師ダム湖畔マラソン大会が開催されます。湖畔道路を利用したこの大会には、親子ペア(1km)、3km、ハーフマラソン、10kmといった種目があり、例年300〜400名のランナーが参加し、健脚を競います。
4月上旬には土師ダム桜まつりが開催され、のどごえ公園でのカラオケ大会や子ども神楽、バザーなど、さまざまな催し物が行われます。夜には600個もの桜提灯に明かりが灯り、多くの観光客で賑わいます。
土師ダムは広島県安芸高田市に位置する多目的ダムで、広島県内で初めて本格的に建設されたものです。堤高は50.0メートルの重力式コンクリートダムで、江の川本流に建設された唯一の特定多目的ダムでもあります。
ダムによって形成された八千代湖は、広大な湖面とその周囲の自然が魅力で、春には約6,000本の桜が咲き誇り、秋には紅葉が美しく彩ります。また、湖畔には芝生広場や大型遊具が整備されており、家族連れにも人気の憩いの場となっています。
土師ダムは1963年に「下土師ダム」として予備調査が開始され、後に現在の名称に変更されました。ダム建設に際しては、203戸が水没することから、地元住民の補償交渉が行われました。1970年には補償交渉が妥結し、本格的な工事が開始され、1974年に完成しました。
土師ダムの主な目的は、江の川の洪水調節や広島市をはじめとする県中央部への上水道・工業用水の供給、さらに水力発電(認可出力38,000kW)の供給です。これにより、地域の水害防止や生活水、工業用水の安定供給を支えています。
土師ダム・八千代湖へのアクセスは、中国自動車道の千代田インターチェンジから車で約15分と便利です。公共交通機関を利用する場合は、広電バスで広島バスセンターから上根・吉田線「下土師行き」に乗車し、終点で下車後徒歩約30分です。
また、周辺には毛利元就の居城として知られる吉田郡山城などの歴史的な観光地も点在しており、歴史探訪も楽しめます。
江の川は「中国太郎」の異名を持ち、中国地方最大の河川として古くから農業用水として利用されてきました。また、水力発電の適地としても知られ、多くの発電所が建設されてきました。中でも、支流にある沓ヶ原ダムや高暮ダム、江の川本流にある浜原ダムは、発電を目的として重要な役割を果たしています。
1965年に発生した昭和40年洪水は、江の川流域に甚大な被害をもたらしました。この大水害を契機に、建設省は江の川水系工事実施基本計画を改訂し、洪水調節を目的としたダムの建設計画が進められました。その中心となったのが、下土師地点に建設された土師ダムです。
ダム建設によって水没する住民の補償交渉は困難を極めましたが、1970年に住民との合意が成立し、工事が本格化しました。現在では、ダム周辺の地域と調和し、自然豊かな風景と共に、多くの観光客を迎え入れています。
土師ダムと八千代湖は、広島県内で重要な役割を果たしており、地域の治水や利水、さらに観光資源としても大きな価値を持っています。桜や紅葉の美しい風景、カヌー競技やマラソン大会などのスポーツイベントが開催されることで、地域住民や観光客にとって憩いと交流の場となっています。豊かな自然と歴史的背景を併せ持つこのエリアは、四季を通じて楽しむことができる魅力的な場所です。