筆の里工房は、広島県安芸郡熊野町に位置する、筆をテーマにした独特の博物館です。この施設は、熊野筆で有名な熊野町の象徴的な存在であり、1994年(平成6年)に熊野町によって設立されました。運営は、指定管理者である筆の里振興事業団が行っています。熊野筆は日本国内の筆の生産量の約80%を占め、1975年(昭和50年)には経済産業省(当時の通商産業省)から伝統的工芸品に指定されるなど、その品質と歴史的価値が認められています。
筆の里工房では、筆の歴史と文化を紹介する常設展が開催されています。また、伝統工芸士による筆づくりの実演も行われ、小学校の社会見学などで多くの子どもたちが訪れています。さらに、定期的に企画展が開催されており、書や絵画、化粧に関する筆をテーマとした文化・芸術が紹介されています。この他にも、全国から「ありがとうの絵てがみ」作品を公募するイベントがあり、多くの人々に親しまれています。
近年では、熊野筆の技術を生かした高品質の化粧筆が注目されています。館内には「熊野筆セレクトショップ本店」が併設されており、1500種類もの熊野筆を取り扱っています。ここでは、実際に水で試筆を行いながら、書筆、画筆、化粧筆など、用途に合わせてお好みの筆を選ぶことができます。
筆の里工房の常設展示には、世界一の大筆(全長3.7メートル、重量400キログラム)や「筆の宇宙」といった展示物があります。また、木村陽山コレクションや画筆・毛筆・化粧筆コーナーも充実しています。体験コーナーでは、文房四宝(筆、墨、硯、紙)をテーマにした活動や、水で筆遊び、モールで文字アート、かな判子、化粧で福笑いなど、多彩な体験が楽しめます。
筆の里工房内には、マルチメディアホールとしての機能を持つギャラリーホールがあり、各種講演会や展示が行われています。また、ギャラリーⅡ、Ⅲ、Ⅳでは、「筆の表現力」をテーマにした企画展が継続的に開催され、来館者に新たな視点から筆の魅力を伝えています。
筆の里工房では、筆づくりの技術を間近で体験できる「手づくり工房」や「筆司の家」があります。ここでは、伝統工芸士が実際に筆づくりを実演しており、来館者は畳に上がって職人と直接対話しながら、筆づくりの奥深さに触れることができます。
施設内には、筆や書に関する資料が豊富に揃った図書室や、観光客が自由にくつろげる交流ラウンジもあります。ラウンジでは、デジタルミュージアムや展示パネルを通じて、熊野筆や筆に関するさまざまな情報を提供しています。また、熊野筆に関する展示ケースでは、歴代の伝統工芸士が作った筆や、ジャパンブランドや伝統工芸士の筆を紹介しています。
筆の里工房には、宇宙飛行士若田光一氏が1996年にスペースシャトル「エンデバー号」の無重力状態で書いた書「宇宙へ」が展示されています。この時使用された筆は、熊野筆でした。このモニュメントは、筆が宇宙でもその力を発揮することを象徴しています。
また、施設周辺には彫刻家鈴木政夫氏の作品や、かな書道の巨匠、植村和堂氏による揮毫の歌碑が設置されています。「水辺のギャラリー」には、筆まつりで書家たちが手がけた大作席書の作品を石碑として後世に伝えています。このギャラリーからは、遊歩道を通じて熊野町内を一望することができます。
筆の里工房へのアクセスは、広島バスセンターから広電バスを利用して約45分、JR矢野駅からは約15分で到着します。熊野営業所で下車後、タクシーで約7分、または出来庭停留所で下車し、徒歩20分です。車でのアクセスも便利で、広島市内からは海田大橋や広島熊野道路経由で約25分、呉市内からは約25分、東広島市内からは約35分、竹原市内からは約55分の距離です。
筆の里工房には駐車場も完備されており、周辺にはカフェやショップも充実しています。館内の「レストラン Cafe 照」では、水辺のギャラリーを見渡しながら、ゆったりとしたひとときを過ごすことができます。また、茶室「鐘聲庵」では、本格的な茶道体験も可能です。
このように、筆の里工房は、熊野筆の歴史と文化を深く知り、実際に触れることができる貴重な場所です。訪れることで、日本の伝統工芸の魅力を再発見できるでしょう。